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光学用バンドパスフィルターの選び方を徹底解説!

バンドパスフィルターを使用した開発設計のヒントを得たい方必見です。

光学用バンドパスフィルターは、「必要な波長だけを通し、不要な波長を遮断する」ために不可欠なデバイスです。その用途は医療機器、カメラ、通信機器、FAセンサなど多岐にわたり、それぞれ求められる性能も異なります。今回バンドパスフィルターに共通して求められる基本機能に加え、用途別にどんな特性が重視されるのかを詳しく整理しました。フィルター選びで失敗したくない方、開発設計のヒントを求めたい方の為のガイド(完全版)です。

1.バンドパスフィルターに共通して求められる基本機能

◆中心波長(CWL)の正確な透過

バンドパスフィルターは、あらかじめ設計された中心波長(Center Wavelength)の光のみを通す構造です。この波長がずれてしまうと、目的とする光の信号が弱まったり、誤った波長を拾ってしまうおそれがあります。そのため、設計通りの波長を高精度に透過できることが最も基本的かつ重要な性能です。

◆必要な帯域のみ高透過率(90%以上が理想)

目的とする波長帯域の光をどれだけ効率よく通すかは、フィルターの性能を左右する大きなポイントです。透過率が高いほど光のロスが少なく、センサーや検出器の感度を高められます。特に産業用・画像処理用途では90%以上の透過率が望ましく、高透過率によって暗所や微弱な光の測定も可能になります。

◆透過帯域外での高い遮断性能

バンドパスフィルターの役割は、透過帯域の外にある不要な波長を確実に遮断することにもあります。たとえば、外乱光(蛍光灯や太陽光)や隣接する波長域のノイズが検出器に届くと、誤動作や精度の低下を引き起こします。

◆入射角依存性の小ささ(角度による波長ズレ抑制)

多くのバンドパスフィルターは、入射角によって透過する波長が短波長側にシフトしてしまう特性を持っています。そのため、使用時に光が斜めに入射する場合、設計波長からずれてしまうことがあります。これを防ぐために、角度依存性を抑えた設計や、特定の角度でも安定して透過できる構が必要になります。広角用途のカメラや、傾いた配置のセンサーなどでは特に注意が必要です。

角度依存に関する詳しい解説はこちら!

◆耐久性(温度、湿度、紫外線への耐性)

バンドパスフィルターは、屋外や高温多湿な環境、紫外線の影響を受ける場所など、過酷な条件下でも安定して動作することが求められるケースが多くあります。特に産業機器やFA(ファクトリーオートメーション)用途では、長期間の安定使用が前提です。耐湿性や熱安定性に優れた膜材料の選定や、耐湿・耐熱試験での実証が重要です。

※安達新産業製バンドパスフィルターの耐久性試験結果についてはこちらをご覧ください。

◆反射防止処理(迷光・ゴーストの抑制)

フィルター表面での反射によって、迷光(不要な光の反射)やゴースト(虚像)が発生すると、センサの誤動作や画像の劣化を招くことがあります。このため、バンドパスフィルターには反射防止コーティング(ARコート)が施され、表面反射を抑える工夫がされています。高精度な撮像機器や測定器では、特にこの性能が画像・データの品質に直結します。

2.バンドパスフィルターの構造(あくまでも一般的な事例)

バンドパスフィルターは、基本的に多層膜コーティング技術によって作られています。透明な基板(ガラス、石英など)の上に、屈折率の異なる薄膜(例えばSiO₂やTiO₂など)を何十層にも重ねることで、特定波長のみを透過させる性能を持たせています。

基板(Substrate):主に石英、BK7ガラスなど
低屈折率膜(Low Index Layer):SiO₂(酸化ケイ素)など
高屈折率膜(High Index Layer):TiO₂(酸化チタン)、Ta₂O₅(五酸化タンタル)など
多層構成:たとえば「高-低-高-低-…」を数十層積み重ねる
補助層(Optional Layers):反射防止層や耐久性向上層を追加することも。

このような積層構造を設計することで、「透過帯域」と「遮断帯域」を自由にコントロールできるわけです。高性能なバンドパスフィルターほど、膜構成が緻密で高精度になっています。

3.バンドパスフィルターの選び方チェックリスト

✅必要な中心波長(CWL)は?
✅必要な帯域幅(FWHM)は?(ナローかワイドか)
✅遮断帯域の範囲は?
✅使用環境(温度・湿度・光強度)は?
✅入射角は何度で使用するか?(角度依存性に注意)
✅必要な透過率はどれくらいか?
✅表面反射対策は必要か?(特に撮影用途など)
✅サイズや形状の制約はあるか?

こちらのページも併せてご確認ください。

4.【用途別】求められるバンドパスフィルターの特性

医療機器用(内視鏡、蛍光検査など)

・高精度な波長制御が必要(ナローバンド幅フィルターが主流)
・生体組織に対する安全性が重視される(紫外領域使用時は特に注意)
・環境耐性(体温や湿気への耐性)が必須
・長時間使用でも性能が劣化しない耐久性

カメラ・撮影機器用(産業カメラ、天体観測など)

・画質重視のため、透過率と反射防止性能が重要
・入射角依存性が少ないフィルターが好まれる(広角レンズ対応)
・複数の波長を選択的に通すマルチバンドパスも需要あり

通信機器用(光ファイバー通信、LiDARなど)

・波長精度と安定性が最重要(通信波長:例えば1310nmや1550nm)
・高温環境や衝撃への耐性も求められる
・小型軽量化のため、フィルター自体も薄型が好ましい

分析・測定装置用(分光分析器、ラマン分光など)

・超ナローバンド幅(1~10nm幅など)が必要なケースも
・透過帯の平坦性と、遮断帯の急峻な立ち上がりが求められる
・スペクトルの歪みを抑えるため、超高精度の多層膜設計が必要

FAセンサ用

・特定波長の高精度な透過 中心波長の精度が非常に重要。
・高い遮断性能 外乱光(蛍光灯、太陽光など)をしっかりカットする必要あり。
・高透過率と信号強度の維持 低透過率では検出感度が不足し、不良品の見逃しに直結。
・入射角耐性 角度依存性の少ない設計が重要。
・耐久性と信頼性 油煙、粉塵、高温などの工場環境に耐えるハードコーティング仕様が推奨される。
・コストと量産性 当社にとっては・・一番悩ましい。

まとめ

バンドパスフィルターには、「通したい光を正確に通す」「不要な光を確実にカットする」という基本機能に加え、用途ごとに異なる細かな要求特性が求められます。医療・撮影・通信・分析・FAセンサ、それぞれの現場で最適なフィルターを選ぶことが機器性能の向上にも直結します。用途に合わせた最適なフィルター選定を、ぜひ意識してみてください。メールでも電話でもすぐにお答えしますので、お気軽にお問い合わせください。