エレクトロマイグレーションの基本メカニズム
デバイスの小型化・高性能化に伴い、ますます重要な課題です。
エレクトロマイグレーション (Electromigration) は、電子デバイス内部の金属配線において、強い電流密度の影響で金属原子が移動する現象を指します。この現象は、電子が金属内を流れる際に原子に衝突し、微小な力を与えることで引き起こされます。以下に、その基本メカニズムと影響を詳しく説明します。
【1】主な発生要因
エレクトロマイグレーションは以下の2つの力によって促進されます。
電子風力 (Electron Wind Force)
電流が流れる際、自由電子が金属原子に衝突し、原子を移動させます。この力がエレクトロマイグレーションの主因です。
原子拡散 (Atomic Diffusion)
温度上昇や電流によって、原子が配線内部でランダムに拡散する現象です。
【2】影響を受けやすい条件
エレクトロマイグレーション(EM)は、特定の環境条件下で顕著に進行します。以下に、EMが特に発生しやすい3つの代表的な条件を解説します。
1. 高い電流密度(High Current Density)
①概要
電流密度とは、配線断面積あたりに流れる電流量(A/cm²)を指します。配線を流れる電流が同じでも、配線が細くなればなるほど、電流密度は上昇します。
②なぜ影響するか
自由電子が金属原子に与える“電子風力”は、電流密度に比例して強くなります。密度が高くなることで、原子に加わる力も大きくなり、原子がより速く移動するため、EMが加速されます。
2. 高温環境(Elevated Temperature)
①概要
配線温度が高くなると、金属中の原子拡散係数が指数関数的に増加します。これはエレクトロマイグレーションの進行速度に直結します。
②なぜ影響するか
ブラックの式(Black’s equation)にもあるように、拡散速度は温度に強く依存します。温度が10℃上がるだけで、EMによる寿命が半分以下になることもあります。
具体例
ハイエンドプロセッサ周辺では、局所的に100℃を超えるケースもあり、EMの進行リスクが高まっています。パワーデバイスや車載用途ではさらに過酷です。
3. 微細配線(Narrow/Thin Interconnects)
①概要
半導体デバイスの微細化が進む中で、配線幅や厚みも年々縮小しています。微細配線では、電流密度が高くなるだけでなく、原子移動が局所的に顕著になります。
②なぜ影響するか
配線が細くなると、原子の移動による断線の影響が大きくなるまた、微細配線は粒界や界面の割合が増加するため、原子が移動しやすくなる
補足:複合的な影響も考慮
これら3つの要因は、単独で作用するというよりは複合的に絡み合うことが多く、例えば「高温かつ高電流密度の微細配線」がEMの進行にとって最も危険な条件となります。そのため、EM耐性の設計には多面的な最適化が求められます。
【3】エレクトロマイグレーションの結果と影響(詳細解説)
エレクトロマイグレーション(EM)は、金属配線中の原子が移動することで、配線の構造や機能に深刻な障害をもたらします。以下は代表的な2つの問題と、それぞれがデバイス信頼性に与える影響の詳細です。
1. ボイド(Void)の形成
①概要
エレクトロマイグレーションが進行すると、金属原子が電子の流れに沿って移動します。その結果、原子が“抜けて”しまった部分には空隙(ボイド)が形成されます。
②技術的背景
ボイドの形成箇所は通常、電子が流れ出る側(カソード端)に多く見られます。この空隙は金属の連続性を断ち、電気抵抗の急上昇や最終的な断線を引き起こします。
③問題点
・配線抵抗の増加による信号遅延
・完全な断線に至ると、致命的な機能停止(例:メモリセルの消失、CPUコアの障害など)
・初期故障ではなく、時間経過で発生するため、製品出荷後の信頼性に直結する
2. ヒルクライム(Hillock)の発生
①概要
移動した原子は、電子の流れの“入り口側”(アノード端)に集積しやすく、そこで金属の蓄積が進行すると、表面に突起構造(ヒルクライム)が形成されます。
②技術的背景
ヒルクライムは配線の厚み方向に成長し、上層や隣接層と接触するリスクを伴います。膜厚が薄い場合や絶縁膜との間隔が狭い場合、ヒルクライムがショート(短絡)を引き起こします。
③問題点
・層間短絡によるクロストークやリーク電流の増大
・高圧系配線では過熱・破壊の引き金になることも
・特に3D構造のデバイスでは、上下層の配線干渉が致命的
補足:他にも広がるエレクトロマイグレーションの波及影響
・局所的発熱(ジュール熱)の増加 → 周辺材料への熱ストレス
・スイッチングタイミングの不安定化 → 高速動作時の信号品質劣化
・多層配線の信頼性低下 → LSIの全体寿命を縮める要因に
4. 影響を抑えるための対策
エレクトロマイグレーションは、微細化・高集積化が進む現代の半導体デバイスにおいて避けて通れない課題です。EMによる配線劣化を防ぎ、長寿命で信頼性の高いデバイスを設計するためには、材料、構造、プロセスの各面での最適化が不可欠です。
①配線の形状最適化 - 幅と厚みの設計
背景
EMの進行速度は、電流密度(電流/断面積)に比例します。したがって、配線幅や厚みを適切に設計することは、電流密度を低下させる直接的な手段になります。
対策例
・配線断面を大きく設計して電流密度を低減
・電流集中が生じやすいコーナーやビア接続部のR処理やテーパー加工でストレスを分散
・回路設計段階で、電流の流れが分散するパターン配置を採用
②保護膜の追加とプロセス温度の最適化
背景
配線が外部環境(酸化、湿気、応力)から受ける影響もEMの促進要因です。また、製造プロセスにおける熱履歴も原子拡散に寄与します。
対策例
・SiNやSiCなどの絶縁保護膜を追加し、金属配線への外部ストレスを軽減
・低温プロセスの導入やアニーリング条件の最適化により、原子移動の抑制
・CMP後の残留ストレスを最小化することで、EMの初期進行を防止
エレクトロマイグレーションは、デバイスの小型化・高性能化に伴いますます重要な課題となっています。その対策を講じることが、長寿命で信頼性の高いデバイスの設計に欠かせません。