水分検知と光学フィルターについて
特定の光を選択的に透過させる光学フィルターが欠かせません。
水分の検知は、食品、農業、医療、産業など幅広い分野で重要な技術です。特に、近赤外(NIR)や中赤外(MIR)領域の特定の波長は、水分による吸収が顕著であり、非接触・高速な測定が可能です。これらの波長を効率的に利用するためには、特定の光を選択的に透過させる光学フィルターが欠かせません。バンドパスフィルターは、測定精度を向上させ、不要な光を除去する重要な役割を果たします。水分を検知するための主要な波長と、それに適した光学フィルターについて解説します。さらに、用途ごとの適切なフィルター選択についても紹介します。
【1】水分を検知する主要な波長
水分を検知するには用途に応じて波長を使い分ける必要があります。光の吸収強度、対象物の性質、測定精度、環境条件に応じて、最適な波長とそれに対応した光学フィルターの選定が不可欠です。
✅970nm(近赤外)
吸収の特徴:水の1次吸収帯に位置し、比較的浅い吸収を示す。
用途 :食品や農作物の表面水分の迅速な検知に使われる。たとえば、果物の鮮度評価や野菜の収穫時期の判断などに活用。
メリット :安価なLED光源やシリコンフォトダイオードと組み合わせやすく、簡易的かつリアルタイムな測定が可能。
✅1200nm(近赤外)
吸収の特徴:水の2次吸収帯に該当し、970nmよりも深い吸収が得られる。
用途 :食品内部や繊維製品の含水率の測定に適しており、パンや麺類などの製造工程での水分コントロールや、衣類の乾燥状態管理に利用される。
メリット :可視光の影響を受けにくく、比較的高精度な測定が可能。
✅1450nm(近赤外)
吸収の特徴:水の3次吸収帯であり、非常に強い吸収が見られる。この波長での吸収は水に特有で、他の成分との分離がしやすい。
用途 :産業分野で最も広く使用され、紙・木材・プラスチック・建材・化学製品など、乾燥工程や水分調整が重要な現場で利用される。
メリット :水分のわずかな変化にも高感度に反応し、高精度な管理が可能。食品業界でも品質管理のために使われる。
※1450nm付近のフィルターはお任せください。反射防止膜、バンドパスフィルター、ミラーなどカスタムで対応可能です。
✅1940nm(中赤外)
吸収の特徴:水の4次吸収帯であり、非常に強い吸収を示す波長の一つ。
用途 :生体の水分測定に適しており、皮膚の水分量評価、医療機器におけるモニタリング用途で利用される。創傷ケアや美容分野での皮膚水分の可視化にも使用される。
メリット :吸収が強いため、生体への侵襲が少なく、非接触で信頼性の高い測定ができる。
✅2940nm(中赤外)
吸収の特徴:OH結合の伸縮振動に由来する極めて強い吸収を示す。水や水酸基を多く含む材料に特に敏感。
用途 :エルビウムレーザー(Er:YAG)などの医療用レーザーでこの波長が使用され、皮膚・歯科処置で水分をターゲットにしたアブレーションが行われる。
メリット :高選択的な加熱・蒸散が可能で、生体組織の精密な処理に適する。
✅6μm(6000nm, 遠赤外)
吸収の特徴:水分子の回転・振動モードによる吸収が集中しており、水の存在を非常に明確に示す。
用途 :赤外分光分析装置(FTIR)などにより、ガス中の水分、工業プロセス中の水蒸気濃度などを分析。大気中の水分測定や環境モニタリングにも用いられる。
メリット :非常に高感度であり、極微量の水分検知が可能。定性・定量分析どちらにも優れている。
【2】水分管理が重要な理由
水分管理は、食品、農業、製造業、医療など多くの分野で品質や効率を左右する重要な要素です。適切な水分制御を行うことで、品質の維持、コスト削減、安全性向上など多くのメリットがあります。以下に、水分管理が重要な主な理由を紹介します。
①食品業界:品質維持と鮮度管理
- 品質と食感の維持
パン、果物、肉製品などは水分量によって食感や風味が変化します。 - カビや細菌の防止
高水分環境では微生物が繁殖しやすく、食品の腐敗を早めます。 - 乾燥・保存効率の向上
乾燥食品では適切な水分レベルを保つことで、保存期間を延ばすことが可能です。
②農業・植物管理:作物の成長最適化
- 水ストレスの回避
作物が水不足になると成長が遅れたり収穫量が低下したりするため、適切な水管理が必要。 - 灌漑の効率化
土壌の水分量を正確に把握することで、適切な灌漑が行え、水資源の無駄を削減可能。 - 収穫後の品質管理
穀物や果実は適切な水分量を保つことで貯蔵中の品質劣化を防止。
③製造業・工業用途:品質管理と生産効率向上
- 紙・繊維業界
水分量が適正でないと、紙や布の強度や質感が変化する。 - 塗装・コーティング
塗料や接着剤は乾燥具合が製品の仕上がりに大きく影響を与えるため、適切な水分管理が必要。 - 電子部品製造
半導体や電子部品は湿気に弱く、過剰な水分が故障の原因になるため、厳密な水分制御が求められる。
【3】光学フィルターで実現する高精度な水分検知
食品、医療、農業、製造現場など、あらゆる分野で「水分の量」は品質や安全性を左右する重要な指標です。近年では非接触での水分測定が進み、赤外線領域の波長を利用したセンサーが広く使われるようになっていますが、依然として精度や効率面で多くの課題が残されています。水分検知において現在直面している主な困りごとを挙げ、それぞれに対してどのように光学フィルター技術が解決の鍵となるかを推察します。
①不要な反射が信号を乱す:反射防止フィルターの重要性
水分検知に用いられる赤外線波長は、非常に微弱であることが多く、レンズやフィルター表面での反射が測定精度に大きな影響を与えます。この反射を抑えるために用いられるのが反射防止(AR)フィルターです。多層構造によるARコートは、透過率を高めるとともにゴーストやフレアを防ぎ、微弱な水分信号を的確に捉えることに貢献します。
②水分の吸収波長だけを的確に捉えたい:バンドパスフィルターの活用
水分は特定の狭い波長(たとえば1.4μm、1.9μm、2.7μm付近)で赤外線を吸収します。これらの波長に対応するバンドパスフィルターを使うことで、周囲の不要な光を排除し、目的の吸収帯域だけを高精度に抽出することが可能です。バンドパスの帯域幅や中心波長を最適化することで、食品の含水率や建材の乾燥状態などを定量的に測定できます。
③環境光の影響で誤検知が起こる:ロングパスフィルターによる外乱光カット
屋外や工場などの測定環境では、太陽光や人工照明に含まれる短波長の光が水分検知の妨げになることがあります。ロングパスフィルターは特定の波長より短い光を遮断し、赤外域のみを透過させる設計です。これにより、外乱光の影響を受けず、純粋に水分に関連する波長域だけでの計測が可能になります。
④光路の複雑さと内部反射の問題:ミラー設計による最適化
水分検知装置では、限られた空間で複数の波長を扱う必要があり、光の反射・分岐が不可欠です。ここで活躍するのが誘電体ミラーやダイクロイックミラーです。これらのミラーは特定の波長を反射または透過させる特性を持ち、無駄な内部反射や干渉を避けつつ、必要な光だけを効率的に導くことができます。
⑤小型化と高精度を両立したい:フィルター統合設計の提案
水分検知装置の需要は、今や現場レベルの携帯型機器やライン上の自動検査装置へと広がっています。これにより、装置の小型化と高性能化の両立が強く求められています。反射防止コートを施したバンドパスフィルター、ロングパスフィルター、そして波長分岐ミラーを一体的に設計することで、光学ユニットのコンパクト化が進み、低コストかつ量産可能な水分センサーの開発が可能となります。
【4】用途別のフィルター選択例
用途ごとに適切なフィルターを選択することで、より効果的な水分検知が可能になります。
✅食品・農産物:970nm, 1450nmのバンドパスフィルターを使用。
✅医療・生体測定:1940nmのバンドパスフィルターが適用可能。
✅工業用途(紙、繊維、塗装):1450nm, 1940nmのフィルターが有効。
✅レーザー治療・分析:2940nm以上のフィルターが使用されている。
まとめ
水分検知には、970nm、1450nm、1940nmなどの近赤外・中赤外波長が有効であり、用途によって最適な波長が異なります。適切な光学フィルターを選択することで、測定精度を向上させ、外乱光の影響を最小限に抑えることが可能です。特にバンドパスフィルターは、特定波長の透過を制御し、センサーの感度を最大限に引き出します。食品、水分計測、産業プロセスなど、各分野に適したフィルターの選定が求められます。今後の技術進展により、より高精度で小型な水分検知システムの開発が期待されます。