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フレキシブルデバイスとスパッタリング

基板の柔軟性を維持しつつ、高品質な薄膜こそがキーテクノロジーです。

近年、電子デバイスの進化により、フレキシブルデバイスが大きな注目を集めています。これらのデバイスは、曲げたり伸ばしたりできる特性を活かし、ウェアラブル端末や次世代ディスプレイ、医療機器など多岐にわたる応用が期待されています。その実現を支える重要な技術の一つが「スパッタリング」です。スパッタリングは、薄膜形成の精度と多様性に優れ、フレキシブル基板上に高度な機能を持つ層を作り出すことが可能です。フレキシブルデバイスにおけるスパッタリング技術の役割と、その応用事例ついて記載します。

1.フレキシブルデバイスとは

フレキシブルデバイスは、柔軟性のある基板や素材を使用して作られた電子デバイスの総称です。従来の硬い基板を使った電子機器と異なり、曲げたり、折りたたんだり、伸ばしたりすることができる特性を持っています。この柔軟性により、フレキシブルデバイスはこれまでの電子デバイスでは実現が難しかった形状や使用環境に対応可能です。

使用される主な基板材料としては、ポリイミド(PI)やポリエチレンテレフタレート(PET)といった柔軟なプラスチックフィルムや、金属箔、さらには柔らかいガラスが挙げられます。これらの素材に薄膜形成技術を組み合わせることで、高い性能と耐久性を実現します。

2.主な応用分野

2-1.ウェアラブルデバイス

スマートウォッチ、フィットネストラッカー、医療用センサーなど、人間の身体に直接装着するデバイスに使われています。特に、体にフィットする柔軟性が求められる製品に適しています。

2-2.フレキシブルディスプレイ

折りたたみスマートフォン、曲面テレビ、電子書籍リーダーのディスプレイなど、形状が自由に変更できるディスプレイに活用されています。OLED(有機発光ダイオード)技術が広く用いられています。

2-3.医療機器

スマートパッチや柔軟なバイオセンサーが、皮膚に貼り付けて体温や心拍数を測定する用途で使われています。また、体内に挿入可能な柔軟性を持つ機器も開発されています。

2-4.電子衣料(スマートテキスタイル)

衣服や繊維に電子回路を組み込む技術で、スポーツウェアや医療用衣料に応用されています。衣服がセンサーやディスプレイの役割を果たすことで、新しい機能性を持たせることができます。

フレキシブルデバイスにおいてスパッタリングを用いて薄膜を形成する際、特に重要なポイントはいくつかあります。フレキシブル基板に高品質な薄膜を形成するためには、材料の特性やプロセス条件に慎重に配慮する必要があります。以下に、フレキシブルデバイスに適したスパッタ薄膜形成の主なポイントを紹介します。

3.フレキシブルデバイスに適したスパッタ薄膜の形成のポイント

3-1. 基板の柔軟性と膜の強度の調整

フレキシブルデバイスでは、基板自体が柔軟であるため、形成される薄膜もその特性に適応する必要があります。スパッタリングにおいては、膜の厚さや硬さが過度であると、基板が変形した際に膜が割れたり、剥がれたりするリスクがあります。従って、適切な膜厚と、基板の変形に耐える弾性を持つ薄膜を形成することが求められます。

3-2. 低温スパッタリング技術の活用

フレキシブル基板は高温に弱いことが多いため、スパッタリングプロセスで使用する温度を低く抑えることが重要です。高温処理は基板の変形や損傷を引き起こす可能性があるため、低温での薄膜形成が求められます。

3-3. ターゲット材料の選定と薄膜特性

スパッタリングによって形成される薄膜の材料選定も重要です。フレキシブルデバイスには、機械的性質や電気的性質が求められるため、適切なターゲット材料を選ぶ必要があります。例えば、透明導電膜としてよく使われるITO(インジウムスズ酸化物)や、半導体や絶縁体として使われるSiO₂などがよく用いられます。

3-4. 基板表面の準備

基板の表面状態は、薄膜の付着性に大きな影響を与えます。フレキシブルデバイスでは、基板表面の清浄度や粗さが特に重要です。表面が汚れていたり、均一でなかったりすると、薄膜の形成が不均一になり、性能に悪影響を与える可能性があります。

3-5. 膜成長のコントロールと成膜速度

スパッタリングの成膜速度は、膜の特性に大きく影響します。速すぎる成膜は膜の不均一性を招くことがあるため、適切な成膜速度を維持することが重要です。

フレキシブルデバイスにおけるスパッタリングによる薄膜形成は、基板の柔軟性を維持しつつ、高品質な薄膜を作成するための慎重な調整が必要です。材料選定、温度管理、膜厚の調整など、複数の要素が絡み合って、最適なデバイス性能を発揮することが可能になります。