ダイヤモンド基板へのメタライズとパターン加工技術:次世代デバイス実現の鍵
ダイヤモンドは、その卓越した熱伝導率、高い絶縁破壊強度、広いバンドギャップといった比類なき物性から、次世代のパワーデバイスや高周波デバイス、量子センサーなどへの応用が期待される究極の半導体材料です。しかし、これらのデバイスを実現するためには、ダイヤモンド基板上に電極や配線を形成する「メタライズ」技術と、それらを微細な回路パターンに加工する「パターン加工」技術が不可欠となります。ダイヤモンドは化学的に極めて安定で硬い材料であるため、その表面に金属膜を密着させ、精密な加工を施すことには特有の難しさがあります。
1. ダイヤモンド基板の特性とメタライズの重要性
ダイヤモンド基板は、シリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)といった従来の半導体材料を凌駕するポテンシャルを持っています。特に、圧倒的な熱伝導率は、高出力動作時の発熱を効率的に放熱させ、デバイスの小型化・高信頼化を可能にします。また、高い絶縁性と広いバンドギャップは、高温・高電圧環境下での安定動作や、より高性能なデバイス設計を可能にします。 これらの特性を活かした電子デバイスを作製するには、オーミック接触やショットキー接合を形成するための電極、信号を伝達するための配線が必要であり、メタライズ技術がその基盤となります。
2. メタライズプロセス
ダイヤモンド基板へのメタライズでは、主に以下の点が重要になります。
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密着性:
ダイヤモンドは炭素原子が強固に結合した不活性な表面を持つため、金属膜が剥がれやすいという課題があります。これを解決するため、チタン(Ti)やクロム(Cr)のような炭化物形成元素を密着層として最初に成膜し、その上にバリア層を積層する多層膜構造が用いられることが一般的です。
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成膜方法:
安達新産業では、主にスパッタリングや真空蒸着などのPVDにて成膜を行います。
成膜条件(基板温度、雰囲気ガス、投入電力など)を最適化することで、膜質や密着性を向上させます。 -
表面処理:
成膜前にダイヤモンド表面を各種処理で改質し、金属膜との密着性を向上する試みも行っております。
3. パターン加工プロセス
メタライズによって形成された金属膜を、目的の回路形状に加工するのがパターン加工です。主に以下の手法が用いられます。
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フォトリソグラフィとエッチング
ダイヤモンド基板上の金属膜全面にフォトレジスト(感光性樹脂)を塗布します。
- 回路パターンが描かれたフォトマスクを介して紫外線を照射し、レジストのパターンを現像します。
- 現像されたレジストパターンをマスクとして、露出した金属膜をエッチング(ドライエッチングまたはウェットエッチング)で除去します。
- 最後に不要となったレジストを除去し、目的の金属パターンを得ます。 ダイヤモンド自体を加工する場合は、反応性イオンエッチング(RIE)などのドライエッチングが用いられますが、硬度が高いため加工レートが遅いという課題があります。
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リフトオフ
- ダイヤモンド基板上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィで「金属を残したい領域」のレジストを除去したパターンを形成します。
- その上から金属膜を全面に成膜します。
- 最後に、有機溶剤などでレジストを溶解・除去すると、レジスト上の金属膜も一緒に剥がれ落ち(リフトオフされ)、基板上に直接成膜された部分だけが目的のパターンとして残ります。微細なパターン形成に適しています。
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メタルマスクを使用したパターン加工
- 薄い金属シートに開けられた開口部(パターン)を通して金属や誘電体などの薄膜材料を基板に蒸着・スパッタリングを行います。
- メタルマスクを使用してパターンを転写するためには、加工対象の基板を適切に準備し、位置を正確に合わせる必要があります。
- その上から金属膜を全面に成膜します。最後に、パターン形成が完了したら、メタルマスクを基板から取り外し、最終的な仕上げ工程を行います。
ご参考:エッチングとリフトオフの違いを徹底解説!
ご参考:メタルマスクとフォトマスクの違い
4. 技術的課題と今後の展望
ダイヤモンド基板へのメタライズとパターン加工には、依然として克服すべき課題があります。特に、高温動作や大電流密度下での電極の信頼性確保、より微細で高精度なパターン加工技術の開発、大面積基板(※2025/4/24イーディーピー様が1インチダイヤモンド基板の開発に成功!)への均一な加工などが求められています。これらの課題解決に向け、新たな密着層材料の開発、プロセス条件の最適化、高度なリソグラフィ技術やエッチング技術の研究が進められています。
まとめ
ダイヤモンド基板へのメタライズおよびパターン加工技術は、ダイヤモンドデバイスの実用化に向けた基盤となる重要なプロセスです。密着性の確保や硬質材料への精密加工といった特有の難しさはありますが、材料科学とプロセス技術の進歩により着実に克服されつつあります。これらの技術の更なる高度化は、省エネルギー社会を実現するパワーデバイスや次世代通信を支える高周波デバイスなど、革新的な応用分野の発展を加速させることでしょう。今後の技術開発とその成果に大きな期待が寄せられています。
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