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SiC基板へのメタライズとチップ加工の動向

パワーエレクトロニクス分野で重要視されている基板です。

SiC(炭化ケイ素)基板は、半導体材料として高い耐熱性、広いバンドギャップ、高い絶縁破壊電界強度などの特性を持ち、特にパワーエレクトロニクス分野で重要視されています。その優れた物理的特性により、SiC基板は高電圧・高温環境でのデバイス用途に適しており、従来のSi基板に比べて大幅なエネルギー効率向上が期待できます。ゆえにTEGチップなどのテストチップ関連においても利用が拡大中です。しかし、極めて高い硬度と脆性を持つため、ウェーハの切断工程は長年にわたり技術者たちを悩ませてきました。今回はカット方法も含めてSiCのメタライズ加工全般についての記事をまとめました。

【1】SiC基板の主な特性

  1. 広いバンドギャップ(約3.26 eV)

    • 高温動作が可能で、Si(1.12 eV)に比べてリーク電流が抑えられる。

  2. 高い絶縁破壊電界強度(約3 MV/cm)

    • 高電圧耐性を持ち、デバイスの小型化と高効率化に寄与。

  3. 高い熱伝導率(約3.3 W/cm・K)

    • Si(約1.5 W/cm・K)よりも熱拡散性が高く、発熱の大きいパワーデバイスに適用可能。

  4. 耐放射線性・耐化学性に優れる

    • 宇宙用途や過酷な環境下での電子デバイスにも利用可能。

【2】GaN(窒化ガリウム)との比較

SiCと同様に、GaNも次世代パワーデバイス材料として注目されていますが、それぞれ特性に違いがあります。

特性 SiC GaN
バンドギャップ 約3.26 eV 約3.4 eV
絶縁破壊電界強度 約3 MV/cm 約3.3 MV/cm
熱伝導率 約3.3 W/cm・K 約1.3 W/cm・K
電子移動度 約900 cm²/Vs 約2000 cm²/Vs
高周波特性 優れているがGaNに劣る 非常に優れる
コスト 高価 比較的安価
  • SiC 高電圧・高温環境に強く、パワーエレクトロニクス向けに最適

  • GaN 高周波特性に優れ、RFデバイスや5G通信向けに適している

【3】SiC基板へのメタライズの必要性

SiC基板を用いたデバイスには、電極形成のために金属膜の成膜(メタライズ)が不可欠です。しかし、SiCは化学的に安定しており、金属との接合が難しいため、適切なメタライズプロセスが求められます。

  1. オーミックコンタクトの形成

    • SiCは高いバンドギャップを持つため、低抵抗のオーミックコンタクトを形成するには、Ni、Ti、Alなどの適切な金属の選択が重要。

    • アニーリング処理によって金属とSiCの反応を促進し、コンタクト抵抗を低減。

  2. 密着性の向上

    • SiCは硬くて化学的に安定なため、直接の金属成膜では密着性が悪くなることがある。

    • TiやCrなどの下地層を導入し、金属膜の密着性を向上させる手法が用いられる。

  3. 高温環境での安定性確保

    • SiCデバイスは高温環境での動作が求められるため、金属電極も耐熱性を持つ必要がある。

    • WやMoなどの高融点金属の使用や、耐酸化性を考慮した金属積層構造が重要。

【4】SiCメタライズ後のカットに革新をもたらすスクライブ&ブレークとは?

SiC(炭化ケイ素)基板は、高耐圧・高耐熱性に優れ、次世代パワーデバイスに不可欠な材料として広く利用されています。しかし、極めて高い硬度と脆性を持つため、ウェーハの切断工程は長年にわたり技術者たちを悩ませてきました。特にメタライズ(配線形成)後の基板では、金属膜へのダメージや微小チップによる歩留まり低下が大きな課題となっています。そんな中、スクライブ&ブレーク(Scribe & Break)と呼ばれる技術が、SiCのダイシング方法に新たな選択肢をもたらしています。

①スクライブ&ブレークとは?

スクライブ&ブレークは、基板表面に微細な切り込み(スクライブ)を入れ、その後に機械的応力を加えて制御破断(ブレーク)させる切断手法です。切削や砥粒による機械加工ではなく、材料の割れ性を利用して切断するため、非接触に近い・低ダメージ・高速という三拍子がそろった方法です。特にSiCのような硬脆材料には非常に相性が良く、従来のブレードダイシングと比べて以下のようなメリットがあります。

チッピングの大幅抑制(端面品質の向上)
切断速度の飛躍的向上(最大100倍高速処理例あり)
✅ドライ工程で冷却液不要、清浄性向上
✅刃摩耗がなく、ランニングコストが低い

安達新産業株式会社では、ガラスカットにおいて長年スクライブカットの実績がございます。

②メタライズ後のSiC切断にスクライブ&ブレークが最適な理由

SiC基板において金属膜が形成された状態(Ni、Al、Ti等の配線メタライズ後)では、切断工程で以下のような問題が起こりやすくなります。

✅金属膜の剥離
✅絶縁層(SiO₂など)との段差での応力集中
✅切断面の酸化や変色(特に熱がかかる加工方法)

スクライブ&ブレークでは、金属層の影響を受けにくい表層制御と、熱をほとんど加えない加工が可能なため、メタライズ後の構造体を傷つけることなく安全に分割することができます。

③今後の展望と課題

スクライブ&ブレークは今後も、「レーザースクライブとのハイブリッド化によるさらなる非接触・高精度化」、「ロボット搬送・AI検査連携による完全自動化ラインの構築」や、「メタル層や絶縁層に対するスクライブ条件最適化アルゴリズムの導入」などで期待がされています。一方で、スクライブの深さ・ピッチ、ブレーク圧力などのパラメータ最適化には、依然として経験や材料知見が必要です。メタライズ材料の物性に応じた破断モデルの開発も進行中です。高精度・高速・低ダメージの切断手法として、スクライブ&ブレークはSiCメタライズ基板加工の新たなスタンダードとなりつつあります。特に微細化・薄型化が進む今後の半導体製造工程において、その有用性はますます高まるでしょう。

まとめ

SiC基板は優れた物性を持ち、次世代のパワーデバイスや高周波デバイスに欠かせない材料ですが、電極形成のためには適切なメタライズ技術が求められます。特に、オーミックコンタクトの低抵抗化、金属膜の密着性向上、高温安定性の確保が重要な課題となります。また、GaNと比較した場合、SiCは特に高電圧・高温用途に適しており、今後の技術開発が進むことでさらなる普及が期待されます。