5分でわかる!UV-IRカットフィルターの徹底解説
プロジェクタ復権?日本国産にこだわる姿勢
【1】UV-IRカットフィルターとは?
UV-IRカットフィルターは、紫外線(Ultraviolet, UV)および赤外線(Infrared, IR)波長域に存在する不要な光を選択的に除去し、特定の波長帯域の光のみを高精度に透過または反射させる光学薄膜フィルターです。本フィルターは多層誘電体膜や金属膜を高精度に積層することにより、干渉効果を利用して波長選択性を実現しています。一般的には数十層から百層を超えるナノメートルオーダーの膜厚制御が要求され、その光学特性は膜厚精度、膜材質の屈折率、膜間界面の平滑性、膜の密着性など複数のパラメータによって決定されます。
光学特性の設計要素のまとめ
✅波長選択性
UV-IRフィルターは、可視光域や近赤外域のセンシング機器において、紫外線や赤外線の不要光を効果的にカットするために設計されます。例えば、特定のUV波長(200~400nm)やIR波長(700nm~数μm)を除去し、目的波長域の透過率を最大化します。
✅干渉多層膜設計
光学設計ソフトウェアを用いて、高屈折率膜材と低屈折率膜材を交互に積層し、膜厚を波長の1/4波長やその倍数に合わせることで特定波長での強い干渉を誘発し、鋭い透過・反射特性を実現します。
✅膜厚精度と均一性
干渉膜の特性は膜厚のわずかな誤差で大きく変動するため、膜厚管理は±0.1nm単位の高精度が求められます。また、基板全面に均一な膜厚を形成するための成膜装置設計や運用も重要です。
✅耐環境性能
UV領域では強い紫外線照射による膜の劣化や基板の変質を防ぐため、高密度で低欠陥な成膜技術が必要です。IR領域では熱的安定性や長期耐久性も設計要素となります。

【2】日本におけるUV-IRフィルター製造の歴史背景
1980年代から1990年代にかけて、日本は世界屈指の多層膜光学フィルター製造技術を保有し、UV-IRフィルターの生産において国際的な競争力を誇りました。技術要素と市場動向がその背景にあり、下記に主な項目をまとめます。
✅多層膜コーティング技術の進化
真空蒸着法、特に電子ビーム蒸着による高純度膜材の蒸発・凝縮技術が普及し、薄膜の膜厚制御精度が向上。また、イオンアシスト蒸着(IAD)技術により、膜の密着性・密度・耐久性を大幅に改善。これによりUV領域の耐久性やIR領域の膜性能が飛躍的に向上。
✅膜厚モニタリング技術の高度化
光学モニター法やプラズマモニターの導入で、成膜中の膜厚をリアルタイムに精密制御し、品質のばらつきを抑制。
✅地域的な産業集積
東北、関東、中部地域に多くの光学薄膜メーカーが集積し、産学連携による技術開発も活発に行われました。特に、電子・光学産業の需要増に伴い、産業用機器、医療機器向けの高性能UV-IRフィルターが量産されました。
✅海外市場と輸出
国内の計測機器、画像処理装置などの拡大とともに、高性能UV-IRカットフィルターの需要は増加。その高品質と安定性により、海外市場へも積極的に輸出され、日本製品のブランド力向上に寄与しました。
このように日本の光学薄膜技術は、UV-IRカットフィルター製造において国際的なリーダーシップを取っていましたが、以降の市場環境の変化に伴い、製造の海外移転が進むことになります。
【3】なぜUV-IRカットフィルターの海外製造が進んだのか?
2000年代以降、日本で盛んに製造されていたUV-IRフィルターの多くが海外にシフトした背景には、複数の要因が重なっています。
まず大きな理由の一つは、製造コストの上昇による価格競争力の低下です。日本国内においては、精密な膜厚制御や品質検査を必要とするUV-IRフィルターの製造に携わる熟練技術者の人件費が年々高騰しました。また、高度な成膜装置や品質管理機器の導入・維持には多額の設備投資が必要であり、これらのコスト負担が製品価格に影響を与えています。一方で、中国や台湾、韓国などアジア各国では、比較的低廉な労働力を活かしつつ、近年は成膜技術や品質管理の水準も飛躍的に向上。これにより、日本製と同等レベルの製品をより低コストで大量生産できる体制が整い、グローバルな市場における価格競争力で優位に立つようになりました。
次に、海外メーカーの量産技術や自動化技術の進展も大きな要因です。以前は高い技術力を背景に日本メーカーが優位に立っていましたが、成膜技術や膜厚モニタリング技術が標準化・成熟し、海外の生産ラインでも高精度かつ安定した品質のフィルター製造が可能となりました。さらに、生産プロセスの自動化や無人化が進み、人件費の影響を受けにくい生産体制が確立されたことで、海外拠点の量産能力は一段と向上しています。
そして、日本国内市場の縮小とともに、設備投資や技術者育成の停滞も製造の海外移転を後押ししています。UV-IRフィルターを使用する国内産業の生産規模の変化や一部海外シフトにより、国内需要は伸び悩みました。また、熟練技術者の高齢化に伴い後継者育成が追いつかず、膜厚制御や品質管理に不可欠な専門技術の継承が難しくなっています。これにより設備の更新や新規投資が抑制され、生産体制の強化が進まない状況となりました。
以上のように、UV-IRフィルターの海外製造シフトは、コスト面だけでなく技術の成熟とグローバルな生産体制の変化、さらには国内市場の環境変化が複合的に影響した結果です。購買部門としては、単に価格比較をするだけでなく、製造元の技術力や品質管理体制、供給の安定性を総合的に判断することが重要です。また、将来的なサプライチェーンリスクを踏まえ、国内生産回帰や多元的調達の可能性も検討していく必要があります。

【4】日本でUV-IRカットフィルターを再度生産するなら・・・必要なポイント(仮説)
日本国内でUV-IRカットフィルターの生産を再開・強化するためには、単に従来の製造技術を踏襲するだけでなく、時代のニーズや市場環境に適応した高付加価値化と生産体制の革新が求められます。私たち薄膜メーカーが技術者として理解すべき必要なポイント(仮説)を以下にまとめてみました。
✅高精度な膜厚制御と高機能膜設計の追求
UV-IRカットフィルターの性能は、ナノメートル単位の膜厚制御精度に大きく依存します。目的波長の透過・反射特性を高精度に実現するためには、光学設計ソフトウェアによる最適な多層膜設計と、成膜中のリアルタイム膜厚モニタリング技術が不可欠です。高層数かつ複雑な膜構造であっても均一な膜厚を維持し、製品間のバラツキを最小限に抑えることが、高い品質と信頼性につながります。
✅耐環境性・耐熱性の強化
近年の用途拡大により、UV-IRフィルターは屋外や過酷環境下での使用が増加しています。これに対応するため、膜の密着性や高密度成膜が可能なイオンアシスト蒸着(IAD)やイオンビームスパッタリング(IBS)といった高度成膜技術の活用が必要です。これらの技術は膜の欠陥率を低減し、紫外線照射や温湿度変動による劣化を抑制。結果として長期にわたり安定した光学特性を維持できます。
✅小ロット多品種対応と短納期体制の構築
近年の市場では、多様化する顧客の要望に応じて、小ロットかつ多品種の製造ニーズが増加しています。これに応えるためには、柔軟な生産ラインの設計と効率的な工程管理が重要です。自動化設備を導入しつつ、手作業が必要な微調整も可能なハイブリッドな生産体制を整備し、迅速な試作から量産へのスムーズな移行を実現することが求められます。
✅生産体制・品質管理の強化
高品質なUV-IRカットフィルターの安定供給には、成膜工程での自動膜厚測定やリアルタイムモニタリングシステムの導入が不可欠です。これにより、膜厚のばらつきや成膜中の欠陥を即時検知でき、歩留まり向上に直結します。加えて、ロット管理や環境試験、耐久試験を含む包括的な品質保証体制を確立することにより、製品トレーサビリティを確保し、顧客の信頼獲得につなげることができます。
✅技術者の確保と育成
高度な膜厚制御や光学設計、品質管理には専門的な知識と経験が不可欠です。現在、日本国内ではベテラン技術者の高齢化に伴い技術継承が課題となっています。若手技術者の積極的な採用と体系的な教育プログラムの整備が必要です。これにより、安定した製造技術と高い製品品質を維持し、将来的な技術革新や市場変化にも柔軟に対応できる体制を構築します。
✅購買部門の視点を理解する。
購買担当者にとっては、これらの技術的な背景を理解することが、最適な調達判断につながります。高付加価値なUV-IRカットフィルターの選定に際しては、単なる価格比較にとどまらず、膜厚制御精度や耐環境性、納期対応力、品質管理体制、技術者の育成状況といった項目を総合的に評価することが重要です。また、小ロット多品種対応や短納期が可能な国内生産体制の強化は、調達リスク低減と顧客満足度向上に直結します。
安達新産業株式会社は高度な光学薄膜技術と柔軟な生産体制を武器に、国内でのUV-IRカットフィルター生産の再構築と市場ニーズへの的確な対応を推進してまいります。

分光チャート
【5】UV-IRカットフィルター選択時の技術的に重要なポイント
UV-IRカットフィルターを適切に選定するためには、いくつかの技術的要素を総合的に考慮することが不可欠です。
①まず、最も基本となるのは透過および反射波長帯域の正確性です。フィルターは特定の波長範囲の光を透過または反射する役割を担いますが、その透過帯幅の設定やカットオフ波長の鋭さは、用途に応じて最適化する必要があります。例えば、センシング用途では極めて狭帯域の透過が求められる場合もあり、膜構造の設計精度が性能を大きく左右します。
②次に重要なのは、透過率や反射率の安定性です。製造バラツキが大きいと光学特性にばらつきが生じ、装置全体の性能や再現性に悪影響を及ぼします。したがって、フィルターの仕様に対して光学特性が安定的に達成されているか、歩留まり管理や品質保証体制の整備状況も確認する必要があります。
③さらに、入射角依存性も見逃せない要素です。多層膜干渉フィルターは入射光の角度が変わると透過波長がシフトする特性を持つため、使用環境や装置の光路設計に応じて、入射角の変動範囲を考慮したフィルター選定が必要となります。特に斜め入射が多い場合は、設計波長のズレを防ぐために角度特性を補正した製品を選択することが望まれます。
④また、耐久性や耐環境性も長期的な性能維持には欠かせません。UV-IRフィルターは紫外線の強い環境や温湿度の変動が激しい条件で使われることも多いため、膜の劣化防止や基板の耐熱性、耐候性などの性能評価が必要です。これにより、長期間にわたって光学特性が安定して維持されることが保証されます。
⑤基板の材質や形状選択も用途により重要です。光学ガラスや石英、あるいは軽量かつ耐熱性のある光学樹脂など、多様な基板素材を使い分けることで、製品の物理的要件や光学特性を最適化できます。
そして、実際の選定にあたってはコストパフォーマンスも無視できません。大量生産向け製品では価格抑制と安定供給が重要ですが、試作段階や研究開発用途では短納期対応や設計の柔軟性が優先されます。用途や生産規模に応じて性能と価格のバランスを見極めることが大切です。
ここで特筆すべきは、設計の自由度と国内での試作検証の重要性です。設計の自由度が高いフィルター製造体制を持つことで、顧客の要求に合わせたカスタム仕様や微細な波長調整が可能となります。これは特殊な用途や新規開発において不可欠な要素です。また、国内で試作を行うことにより、迅速なフィードバックループを実現でき、試作から量産へのスムーズな移行が可能となります。納期短縮だけでなく、コミュニケーションの密度が高まることで、設計仕様の微調整やトラブルシューティングも迅速に行えます。※標準在庫品で開発のスピードアップを!
このように、UV-IRカットフィルターの選択にあたっては、光学性能の正確性、耐環境性、コスト面だけでなく、設計の自由度や国内試作体制の有無も重要な判断軸となります。これらの要素を総合的に検討し、最適な製品を選定することが求められます。
【6】今後の展望
UV-IRカットフィルター市場は、IoTやAI技術の急速な普及とともに、ますます高機能・高精度な製品へのニーズが拡大しています。関西万博では、3面スクリーンをはじめとした演出の多様化にプロジェクタ技術の進化が欠かせないものとなっておりました。また、先端センサーシステムでは、従来以上に特定波長の選択性が求められるだけでなく、使用環境が多様化・過酷化する中での耐環境性や耐久性の向上も不可欠です。特に屋外環境や産業用途での長期安定動作を保証するために、成膜技術のさらなる革新と厳密な品質管理が必要となっています。
その一方で、材料技術や成膜プロセスも次世代の段階へと進化しています。有機・無機の複合膜を組み合わせたハイブリッド材料の導入や、多層膜構造の新設計により、従来の物理的・光学的限界を超える性能向上が期待されています。これらの革新技術は、薄膜の膜厚制御精度や層間密着性のさらなる改善をもたらし、極めて狭帯域かつ高耐久性のフィルター設計を可能にします。
加えて、昨今の国際情勢やサプライチェーンのリスクを踏まえ、重要な産業・防衛分野では国内回帰と技術力強化の動きが活発化しています。安全保障や品質確保の観点から、日本国内での生産体制の再構築と技術蓄積が強く求められており、高精度光学フィルターの国内製造は単なるコスト面の問題を超えた国家的な課題となっています。
また、ウェアラブル端末やモバイル機器の急速な普及により、UV-IRフィルターの小型化・軽量化への対応も不可避です。薄膜の高密度化とともに、基板の薄型化や新素材の活用により、これらコンパクトデバイスに最適化された光学性能の実現が求められています。
結び~日本国産にこだわる安達新産業株式会社の取り組み
安達新産業株式会社は、長年にわたり積み重ねてきた光学薄膜技術を基盤に、国内外の市場動向と技術革新の潮流を鋭く捉え、高品質なUV-IRカットフィルター製品の開発・提供を推進しています。弊社の強みは、ナノメートル単位の膜厚制御技術、多様な基板素材への柔軟な対応力、そして迅速かつ密接な試作・評価体制にあります。
特に国内生産にこだわる理由は、単に「ものづくりの品質」を守るだけではありません。日本の高度な光学技術と熟練技術者のノウハウを次世代に確実に継承し、高度な設計自由度とカスタマイズ対応力を実現することが、最先端産業の競争力に直結するからです。海外生産では困難な微細な仕様調整や迅速なフィードバック、また緊急時の柔軟な対応を可能にすることで、お客様の開発スピードと製品品質向上に貢献しています。さらに、国内の厳しい品質管理基準のもとで生産を行うことは、安全保障や信頼性の観点からも極めて重要です。国際的な供給網の不確実性が増す中、安達新産業は「信頼されるサプライヤー」として、日本の産業基盤の一翼を担う責任を強く自覚しています。
今後も、弊社は革新的な薄膜材料や最新成膜技術の導入に積極的に取り組みつつ、国内生産の強化を通じて日本の技術力向上に貢献し続けてまいります。これにより、お客様の多様なニーズに応えるだけでなく、光学フィルター産業の持続的な発展と安全保障の確保に寄与してまいります。