ダイヤモンドデバイス:薄膜加工技術が拓く実用化への道
精密なメタライズ、エッチング、絶縁膜形成に至る一連のプロセス技術が必要です。
「究極の半導体」と称されるダイヤモンドは、その比類なき物理的・電気的特性により、エネルギー効率の向上、情報通信技術の革新、さらには量子技術や医療分野への貢献が期待されています。近年、高品質なダイヤモンド結晶の合成技術が進展し、夢の材料であったダイヤモンドを用いたデバイスの実用化が現実味を帯びてきました。しかし、その優れたポテンシャルをデバイスとして具現化するためには、ナノメートルスケールでの精密な「薄膜加工技術」が不可欠です。今回は、実用化が進むダイヤモンドデバイスの応用分野と薄膜加工技術について紹介します。
【1】実用化が加速するダイヤモンドデバイス
ダイヤモンドのユニークな特性は、多岐にわたる応用分野でブレークスルーをもたらす可能性を秘めています。
✅パワーエレクトロニクス
高い絶縁破壊強度と熱伝導率を活かし、SiCやGaNを超える低損失・高効率な次世代パワーデバイス(ダイオード、トランジスタ)が期待され、一部では実用化に向けた動きが進んでいます。電力変換効率の向上は、省エネルギー社会の実現に直結します。
✅熱管理
圧倒的な熱伝導率は、高出力化が進むGaNデバイスやレーザー等の放熱部品(ヒートスプレッダ)として既に実用化されており、最も成功している応用の一つです。
✅センサー
ダイヤモンド中のNVセンターを利用した量子センサーは、室温・大気中で高感度な磁場・温度計測を可能にし、医療診断や材料分析への応用が進んでいます。また、化学的安定性から過酷環境センサーやバイオセンサーへの展開も期待されます。
✅量子技術
NVセンターは、室温動作可能な量子ビットとしても有望であり、量子コンピュータや量子通信のキーコンポーネントとしての研究開発が世界的に加速しています。
✅高周波デバイス
高いキャリア移動度と動作電圧は、Beyond 5G/6G時代の高周波・大電力増幅器への道を拓く可能性があります。
これらのデバイスはすべて、ダイヤモンド基板上あるいはダイヤモンド薄膜自体に、機能を発現させるための微細な構造を作り込む薄膜加工技術の上に成り立っています。
【2】デバイス作製に不可欠な薄膜加工技術
ダイヤモンド基板や薄膜上にデバイス構造を作り込むためには、以下の加工技術が不可欠です。
✅メタライズ(金属薄膜形成)
ダイヤモンドは化学的に不活性で金属が付着しにくいため、チタン(Ti)などの炭化物を形成しやすい金属を密着層として用い、その上に白金(Pt)や金(Au)などを積層する多層電極構造が一般的です。成膜前のプラズマ処理等による表面改質も重要です。スパッタリング法や蒸着法が用いられます。
✅絶縁膜形成
トランジスタのゲート絶縁膜や、デバイス表面を保護し特性を安定化させるパッシベーション膜として用いられます。
Al2O3、SiO2などが用いられ、CVD法、スパッタリング法などで形成されます。ダイヤモンドとの界面特性(欠陥が少ないこと)がデバイス性能に大きく影響します。
✅パターニング(微細加工)
リソグラフィ
フォトレジストと呼ばれる感光性樹脂とマスクを用いて、光(紫外線や電子線)で回路パターンを転写する技術です。
エッチング
リソグラフィで作製したレジストパターンをマスクとして、不要な部分の薄膜(金属、絶縁膜、あるいはダイヤモンド自体)を選択的に除去する技術です。
リフトオフ
エッチングが難しい材料のパターニングに用いられる手法で、レジストパターン形成後に膜を堆積し、レジストを除去することで不要部分の膜を取り除く方法です。
ご参考:エッチングとリフトオフの違いを徹底解説!
ご参考:安達新産業のパターニング加工について
【3】薄膜加工における課題と今後の展望
ダイヤモンドデバイスの実用化を加速するには、薄膜加工技術のさらなる向上が不可欠です。主な課題としては、①低抵抗・高信頼性なオーミック接触(特にn型)、②高精度・低ダメージなダイヤモンドエッチング技術、③高品質な絶縁膜と良好な界面形成、④大面積ウェハに対する均一なプロセス技術、⑤これらのプロセスを組み合わせた際の歩留まり向上、などが挙げられます。
これらの課題に対し、新しい電極材料の開発、原子レベルでの精密加工を可能にする原子層エッチング(ALE)などの新技術、界面制御技術、プロセスシミュレーションの活用など、多角的な研究開発が進められています。
まとめ
ダイヤモンドデバイスの実用化は、その優れた潜在能力を最大限に引き出すための薄膜加工技術の進歩と密接に連携しています。精密なメタライズ、エッチング、絶縁膜形成に至る一連のプロセス技術の高度化が、パワーエレクトロニクス、量子技術、センサーなど、幅広い分野でのダイヤモンドデバイスの普及を加速させる原動力となります。多くの課題は残されているものの、世界的な研究開発の活発化により、ダイヤモンドがもたらす未来は着実に近づいています。薄膜加工技術の継続的な革新が、その未来を切り拓く鍵となるでしょう。安達新産業株式会社は、株式会社イーディーピー様のダイヤモンド基板の取扱いも可能です。メタライズ加工、パターン加工とあわせてご提案が可能です!