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関西万博×光学薄膜 Episode:4

移動本能を刺激する未来の乗り物『CORLEO』の挑戦

正直なところ、他社様の製品を勝手に取り上げて自社のホームページで評価することに、少しばかり複雑な心境を抱いています。日々技術の研鑽に励む立場として、他社の技術に驚嘆し、称賛の言葉を紡ぐのは、どこか自虐的で、ある意味“禁断の領域”に踏み込むような感覚すらあります。

しかし、今回2025年の大阪・関西万博で川崎重工様の四足歩行型パーソナルモビリティ「CORLEO(コルレオ)」という製品に触れ、その斬新かつ高度な技術に正直申し上げて「かなりの衝撃」を受けました。自分たちの技術者魂が刺激され、もっと深く理解したい、技術の本質を探求したいという強い好奇心に駆られています。

だからこそ、本稿を通じて、未来のパーソナルモビリティがどのように進化し、我々の光学薄膜技術がどのように関わっていけるのかを改めて考察していきたいと思います。謙虚な気持ちとわずかな戸惑いを胸に、未来の可能性を探る旅路の始まりです。

【1】移動本能というコンセプト

人間に備わる「移動本能」は、単なる移動手段の欲求を超え、遺伝子レベルで刻まれた「新しい場所を探求し、環境と対話する喜び」として存在します。川崎重工様は、この深層心理に根差した人間の本能的な移動欲求に着目し、技術開発の指針としています。未来のモビリティは単に「速く移動する」ことだけを目的とするのではなく、ユーザーが自然との調和を感じつつ、未知の環境にも柔軟に適応できることが求められています。

この哲学を体現するため、関西万博の「未来の都市」パビリオンでは、「移動本能研究所 Kawasaki Future World」というテーマのもと、最先端のパーソナルモビリティ技術が展示されます。ここでは、ロボティクス、AI、センシング技術、そして光学薄膜をはじめとした高度な光学部品が融合し、人間の動きや感覚を機械がリアルタイムで理解・支援することで、かつてない移動体験を提供することを目指しています。

特に、移動する際の安定性や安全性を確保するために、モビリティの各種センサーは環境情報を高精度で取得し、AIが瞬時に解析。光学薄膜技術を用いた高性能フィルターやコーティングは、センサーの感度と耐環境性能を飛躍的に向上させる手段なのでは・・と仮説を立てております。夜間や悪天候、複雑な地形など、従来の移動手段では困難だったシーンでも、人間と機械が一体となり、自然と共生しながら安全に移動できる未来像が描かれています。

つまり、単なる移動手段の進化ではなく、「人間の持つ移動本能を最大限に引き出し、より自由で感動的な移動体験を創出する」ことに大きな意義を持ちます。川崎重工様が挑む「移動本能研究所 Kawasaki Future World」は、その実現に向けた最前線であり、未来社会のモビリティのあり方を示す重要な試みと言えるでしょう。

【2】CORLEOとは何か?

CORLEO(コルレオ)は、川崎重工様が最先端の技術を結集して開発した四足歩行型のオフロードパーソナルモビリティです。従来の二輪や四輪のモビリティとは一線を画し、四肢を持つ動物のような柔軟かつ安定した走行性能を実現。多様な地形に対応可能な新しい移動手段として、次世代のパーソナルモビリティ市場に革新をもたらすことを目指しています。

✅デザインとネーミングの由来

CORLEOの名前は「coral(サンゴ)」と「leo(ライオン)」を組み合わせた造語です。サンゴの複雑かつ強靭な構造から着想を得ており、環境に柔軟に適応しながらも高い耐久性を持つことを表現しています。一方で「leo(ライオン)」は力強さと俊敏性の象徴であり、CORLEOが持つパワフルかつ精密な動作性能を象徴しています。こうした二つの自然界の特性を融合させたネーミングには、技術と自然が調和した未来のモビリティ像を体現する意図が込められています。

✅操作方法

ユーザーは、伝統的な乗馬スタイルのハンドル操作を用いることで、直感的に四足歩行型の動きをコントロール可能です。これに加え、川崎重工が独自開発したAI制御システムが搭載されており、リアルタイムで走行状況や地形データを解析しながら最適な動作パターンをアシストします。AIがバランス調整や衝撃吸収、障害物回避を自動的に行うため、初心者でも高い安全性を確保しつつ快適に走行できる設計です。

具体的には、ユーザーのハンドル操作や体重移動の入力情報をセンサーで検知し、AIが脚の動作タイミングや姿勢制御を連動して調整。これにより、急激な地形変化や突発的な障害物に対しても安定した動きを維持できます。

コルレオのイメージはこちらをご覧ください

【3】技術的特徴と革新性

CORLEOは、川崎重工が長年培ってきたモーターサイクルの動力制御技術と最先端ロボティクスを融合させた革新的な四足歩行型パーソナルモビリティです。人間の動きを支える筋肉や関節の役割を、電動モーターと制御システムで高度に再現し、多様な地形においても安定かつスムーズな走行を実現しています。

スイングアーム機構

各脚に独立したスイングアーム機構を採用。これはモーターサイクルのサスペンション技術を応用したもので、地面からの衝撃や振動を効果的に吸収しながら、走行中の姿勢制御に寄与します。スイングアームは高剛性ながら軽量設計で、脚の可動域を広げることで複雑な地形にも柔軟に対応可能です。これにより路面の凹凸や障害物による衝撃を低減し、乗り心地と安定性を両立しています。

高精度センサー群

慣性計測装置(IMU)や複数の距離センサー(LiDARやステレオカメラを想定)を搭載し、リアルタイムで周囲の地形情報を収集。IMUは加速度や角速度を高精度に検出し、モビリティの姿勢や動きを細かく把握します。距離センサーは障害物や地面形状の変化を正確に測定し、AI制御にフィードバック。これにより、脚の動作パターンやバランス調整を瞬時に最適化し、安定した歩行を実現しています。

「ひづめ」構造の足

CORLEOの足部は、自然界の動物のひづめを模倣した特殊な設計が特徴です。接地面積と形状を工夫し、岩場、ぬかるみ、砂地、急斜面など多様なオフロード環境で優れたグリップ力と安定性を発揮。素材には高耐摩耗かつ軽量な複合材料を使用し、耐久性と機動性のバランスを追求しています。さらに足先には微細な動作を可能にするアクチュエータを内蔵し、地形に応じた角度調整や微妙な接地圧の制御も可能です。

高効率ブラシレスモーターと駆動システム

各脚には高トルクかつ高応答性のブラシレスDCモーターを採用。これにより、静音性とエネルギー効率が向上しつつ、素早く精密な脚の動きを制御可能です。モーターは独立駆動されており、AI制御によって各脚の動作を微細に同期・調整。これにより、複雑な地形でもスムーズかつバランスを崩さずに歩行・走行が行えます。

高度な制御アルゴリズムとAI

センサーからの膨大なデータをもとに、リアルタイムで脚の動作、バランス、速度を調整するAI制御を搭載。これにより、ユーザーの操作入力と環境状況を統合的に判断し、最適な歩行パターンを生成。地形の変化や障害物の出現にも即座に対応可能で、過酷な環境下でも安全かつ快適な移動を支援します。

CORLEOは、このように川崎重工の伝統的なモーターサイクル技術に加え、最先端のロボティクス・AI・材料技術を統合した多次元的な技術革新を実現。これにより、オフロードのあらゆる地形に適応可能な、次世代のパーソナルモビリティとして注目されています。

【4】 搭載されるであろう光学部品の推測

CORLEOのような最先端の四足歩行型パーソナルモビリティにおいて、高度な地形認識と安全な走行を支える光学部品は不可欠な要素です。川崎重工様が公式に公開している情報は限定的であるものの、現在のロボティクスや自律移動技術のトレンド、およびCORLEOの想定される使用環境から、以下のような光学部品が搭載されることが十分に考えられます。あくまでも推測の域をでないことはご容赦ください。

🟨LiDARセンサー用バンドパスフィルター

LiDARはレーザー光を用いて周囲の距離情報を取得するセンサーですが、強い環境光や太陽光などの不要な光がノイズとして入り込むと計測精度が低下します。バンドパスフィルターは、LiDARの使用波長(例えば905nmや1550nm帯)に特化して特定の波長のみを透過させる多層膜構造を持ち、不要光を効率的に除去。これにより、距離計測の信頼性と精度が大幅に向上します。

🟨近赤外線カメラ用IR透過フィルター

夜間や霧、降雨など視界の悪い条件下でも対象物を鮮明に捉えるために、近赤外線(NIR)カメラの活用が期待されます。IR透過フィルターは、人間の目に見えない近赤外線を選択的に透過しつつ、可視光や不要な波長を遮断。これにより画像のコントラストが向上し、センサーの検出性能が強化されます。※東亞合成アロニックスシートへのARコートはこちら

🟨高耐久性AR(反射防止)コーティングを施したレンズ

移動体は屋外の様々な環境条件に晒されます。埃や水滴、傷などは光学系の性能劣化の主要因です。多層の誘電体膜で形成される高耐久性のARコーティングは、光の反射を最小限に抑えるとともに、表面の耐摩耗性や防汚性を高めることで、センサー性能の長期間安定稼働を支えます。

🟨多層膜による反射防止膜(AR膜)

高感度な光学センサーの性能を最大限引き出すためには、光の透過率を高め、内部での光の反射や散乱を低減することが不可欠です。多層誘電体膜からなるAR膜は、光学部品の表面での反射率を極限まで下げ、センサーの検出感度や信号対雑音比(SNR)を向上させます。これにより微弱な光信号でも正確に検出可能となります。

なお、これらの光学薄膜技術はあくまで一般的な自律移動ロボットやパーソナルモビリティにおいて必要とされるものであり、現時点で川崎重工様のCORLEOにこれらの光学部品が搭載されているという公式な確認情報はありません。また、安達新産業株式会社の光学薄膜製品も搭載されておりません。ただし、当社の光学薄膜技術は、同様のバンドパスフィルターやAR膜、多層膜コーティングにおいて長年の実績があり、同社に限らず将来的なパーソナルモビリティ分野への展開可能性は十分にあると考えております。

今後、CORLEOのような先進的パーソナルモビリティのさらなる普及に伴い、光学薄膜技術はより高度化・多様化していくことが予想されます。特に耐環境性や高精度フィルター機能は、リアルタイムの地形認識や障害物検出、夜間走行支援など、安全性を支える根幹技術として重要な役割を果たし続けるでしょう。

結び~実用化への展望

CORLEOは、四足歩行型パーソナルモビリティとしての高い機動性と安定性を活かし、多様な用途での実用化が期待されています。特に、これまで移動が困難だった環境や新たな移動ニーズに応えるポテンシャルを持つ点が大きな特徴です。

山岳地帯や災害現場での活用

従来の二輪や四輪車両ではアクセスが難しい、急峻な斜面や不整地の山岳地帯、さらには地震や土砂災害によって地形が変化した現場での活躍が見込まれます。CORLEOは高精度センサーとAIによるリアルタイム地形解析をもとに、複雑な地形を自律的に走行可能。人が立ち入れない場所への物資輸送や救助活動の支援に活用でき、災害対応力の向上に寄与します。さらに、足部の「ひづめ」構造が不安定な地面でも確実なグリップを提供し、滑落や転倒のリスクを低減しています。

都市部での新たな移動手段

都市の狭小路地や歩行者空間、舗装されていない未整備路など、従来の車両が入りづらい環境でも走行可能。これにより、都市部の「ラストワンマイル」輸送の効率化に貢献します。例えば、宅配サービスや医療物資の配送、街中のメンテナンス作業など、多彩な用途に適応可能です。CORLEOのコンパクトかつ四足歩行による高い安定性が、狭隘空間での安全走行を可能にし、歩行者や他の交通手段との共存を実現します。

実用化展望は、川崎重工様のCORLEOが持つ高度な機械設計、AI制御、センシング技術によって支えられています。今後の技術進化とともに、より多様なニーズに応えるパーソナルモビリティとして、社会インフラや生活様式の変革に大きな役割を果たすことが期待され、安達新産業株式会社の光学部品もその一翼を担いたい!という思いであります。