5分でわかる!近赤外線の徹底解説
「見えない光」が産業を変える
光には、人間の目に見える「可視光」と、見えない光があります。近赤外線(Near-Infrared / NIR)は、可視光のすぐ隣に位置する「見えない光」のひとつ。実は私たちの身の回りのさまざまな機器や産業プロセスに深く関わっており、近年その重要性がますます高まっています。「近赤外線って何?」という基礎から、どんな分野で使われているのか、そして光学コーティング技術との関係まで、わかりやすくご説明します。

01:近赤外線とは何か?――光の”仲間たち”を整理する
電磁波のスペクトルと近赤外線の位置づけ
光は電磁波の一種です。私たちが目で感じられる可視光は、おおよそ380nm〜780nmの波長域。これより波長が長くなると「赤外線」の領域に入ります。※但し、人の目に見える波長が人によって異なるように、波長域の定義は学会や各種団体文献などによって差がありますので、シビアな数値を要求される場合は注意が必要です。
| 領域 | 波長の目安 |
|---|---|
| 可視光 | 380〜780 nm |
| 近赤外線(NIR) | 780〜3,000 nm |
| 中赤外線(MIR) | 3,000〜25,000 nm |
| 遠赤外線(FIR) | 25,000 nm〜 |
近赤外線は可視光に最も近い赤外線の帯域であるため「近」赤外線と呼ばれます。目には見えませんが、カメラのセンサーや分光器では検出できます。
近赤外線の特徴
- 透過性が高い:一部の材料(シリコン、特定のプラスチック、生体組織など)をよく透過する
- 散乱が少ない:霧や煙の中でも比較的届きやすい
- 熱作用が小さい:遠赤外線と比べて熱エネルギーとしての作用が穏やか
- センシングに好適:多くの有機物・無機物固有の吸収帯を持つ
02:近赤外線はどこで使われているのか?――広がる応用分野
近赤外線は、今や多岐にわたる産業で活躍しています。
1. 農業・食品検査
近赤外分光(NIR分光)は、農産物の糖度・水分・タンパク質含量を非破壊で測定する技術として広く普及しています。スーパーのメロンの甘さ選別にも使われているほどです。
2. 医療・生体計測
生体組織は近赤外線を比較的よく透過するため、血中酸素濃度(SpO2)の測定(パルスオキシメーター)や、脳活動の計測(fNIRS)などに利用されています。
3. 産業・製造プロセス
樹脂・フィルム・塗料などの品質をインラインで管理するセンサーとして活用されており、製造ラインのスマート化・自動化に貢献しています。
4. 通信・情報処理
光ファイバー通信では、1,300nm〜1,550nm帯の近赤外線が主に使われています。インターネットの通信を支える基盤技術です。
5. セキュリティ・監視カメラ
暗視カメラや顔認証システムでは、人が気づかない近赤外線を照射して映像を取得する方式が標準的に採用されています。
6. 自動車・LiDAR
自動運転やADAS(先進運転支援システム)に使われるLiDARセンサーは、近赤外線レーザーを使って周囲の距離・形状を3Dで測定する技術です。EV・自動運転の普及とともに、需要が急拡大しています。

03:近赤外線と光学コーティングの関係――性能を引き出す「薄膜」の力
近赤外線を活用する機器・システムにおいて、**光学コーティング(光学薄膜)**は性能を左右する重要な要素です。
なぜコーティングが必要なのか?
レンズやウィンドウなどの光学部品には、光の透過・反射・遮断を精密にコントロールする必要があります。特に近赤外線の領域では、以下のようなニーズが存在します。
- 特定波長だけを透過させたい(バンドパスフィルター)
- 近赤外線を反射・遮断したい(NIRカットフィルター)
- 反射ロスを最小限に抑えたい(ARコーティング=反射防止コーティング)
- 特定の波長を高精度に選択したい(ナローバンドフィルター)
これらを実現するのが、ナノレベルで制御された光学薄膜コーティング技術です。
コーティング材料の選定が鍵
近赤外線域でのコーティングには、使用波長での光学定数(屈折率・消衰係数)が適切な材料を選ぶことが重要です。また、センサーやカメラへの組み込みを想定した場合、耐環境性(耐湿・耐熱・耐擦傷)も求められます。

04:近赤外線フィルターに求められる精度
近赤外線を扱うシステムでは、フィルターの特性が装置全体の精度・信頼性に直結します。
- 急峻なカットオフ特性:可視光と近赤外線の境界を鋭く区切ること
- 高透過・高遮断の両立:透過帯では光を損なわず、遮断帯では徹底的にカット
- 波長シフトの安定性:温度変化や入射角の変化に対する安定性
これらの高精度な要件に応えるには、成膜プロセスの精密な管理と、豊富な設計・実績の蓄積が欠かせません。
まとめ:近赤外線活用のカギは、精密な光学薄膜にある
- NIR(780〜2,500 nm)は透過性・固有吸収帯・低散乱性という特性から、産業センシングの主役となっている
- LiDAR・医療・通信・食品検査など応用分野は広く、要求される波長帯と精度は用途ごとに異なる
- フィルター特性(透過率・遮断比・エッジスティープネス)がシステム全体のSN比と信頼性を左右する
- 成膜材料の選定・膜厚制御・設計最適化という三位一体の技術力が、高性能NIRフィルターの条件
近赤外線対応フィルター「匠の赤外線」
匠のコーティングでは、近赤外線領域に対応した高精度光学薄膜フィルター「匠の赤外線」を提供しています。
- 780nm〜2,500nm帯域に対応した各種フィルター設計
- バンドパス・NIRカット・ARコーティングなど幅広いラインアップ
- 少量多品種・試作対応から量産まで柔軟に対応
近赤外線フィルターの設計・製作についてお悩みの方は、ぜひ「匠の赤外」のページをご覧ください。