屋外2年、シフト量±2nm以内。光学薄膜フィルターの耐久性を実証!
カタログの数値だけでは見えない「本当の耐久性」
光学薄膜フィルターを選定する際、多くの技術者・購買担当者が最初に確認するのは分光透過率カーブや半値幅といった「初期性能」です。しかし、屋外設置機器やセンサーモジュールに組み込む場合、本当に知りたいのは「1年後、2年後もその性能が維持されているか」ではないでしょうか。
紫外線、温湿度サイクル、雨水、大気中の塵埃——これらの複合的なストレスは、恒温恒湿槽やUV照射試験機による促進試験だけでは完全には再現できません。促進試験は短期間で結果が得られる利点がある一方、「実際の屋外環境でどうなるか」という問いに対する最終的な答えにはなりにくいという課題があります。
そこで安達新産業株式会社では、自社屋上において光学薄膜フィルターを丸2年間にわたり実際に屋外へ設置し、光学特性の経時変化を追跡する暴露試験を実施しました。今回は特別にその試験結果の一部分を公開し、そこから読み取れる実用上の示唆をご紹介します。

【1】試験の概要
①試験方法
- 試験場所:安達新産業株式会社 東大阪工場 屋上(実環境に放置)
- 試験期間:2024年7月1日〜2026年7月31日(6か月・1年・2年の3ポイントで評価。※尚、本試験は今後も継続予定)
- 評価項目:
- 半値波長シフト量——フィルターの透過率が最大透過率の50%となる波長(半値波長)が、試験前と比較してどれだけ移動したか
- テープ試験——膜面にテープを貼付・剥離し、膜の密着性(剥離・欠けの有無)を確認する試験
半値波長シフトは「光学性能そのものの劣化・変化」を示す指標であり、テープ試験は「光学薄膜の物理的な健全性(密着性)」を示す指標です。この2軸を組み合わせることで、光学特性と機械的信頼性の両面から耐久性を評価しています。
②試験対象製品
基板の異なる白板硝子(B270、D263)を用いた、用途の異なる5種類のフィルターを対象としました。
| 品名 | 基板 |
| 680nmバンドパスフィルター | B270 |
| ダイクロイックフィルター | B270 |
| デュアルバンドパスフィルター(905nm) | B270 |
| IRカットフィルター | D263 |
| 905nmバンドパスフィルター | D263 |
③当社の光学薄膜コーティング技術について
今回試験対象とした各フィルターは、いずれも真空蒸着をベースとした誘電体多層膜コーティングにより成膜しています。安達新産業では、バンドパスフィルターやダイクロイックフィルター、IRカットフィルターなど、紫外〜可視〜赤外の幅広い波長域にわたり、お客様のご要望に応じた波長帯・透過率・阻止帯域のカスタム設計に対応しています。今回の暴露試験は、こうした自社コーティング技術が実環境下でどこまで性能を維持できるかを検証する取り組みの一環です。技術の詳細はこちら(光学薄膜フィルターについて)をご覧ください。

【2】試験結果
| 品名 | 基板 | 6か月 | 1年 | 2年 | テープ試験 |
| 680nmバンドパスフィルター | B270 | -0.21nm | -0.04nm | +0.01nm | 全期間〇 |
| ダイクロイックフィルター | B270 | +0.16nm | -0.13nm | -0.34nm | 全期間〇 |
| デュアルバンドパスフィルター(905nm) | B270 | -1.91nm | -0.21nm | -0.86nm | 全期間〇 |
| IRカットフィルター | D263 | +0.26nm | +0.18nm | +0.50nm | 全期間〇 |
| 905nmバンドパスフィルター | D263 | -0.02nm | -1.10nm | -0.89nm | 全期間〇 |
まず注目すべきは、5製品すべてでテープ試験が2年間を通じて合格(〇)という点です。屋外環境に2年間さらされた後も膜の密着性に異常は見られず、剥離や欠落といった物理的な劣化は確認されませんでした。また、半値波長シフト量については、いずれの製品も2年間を通して±2nm以内に収まっています。680nmバンドパスフィルターに至っては2年経過時点でのシフト量がわずか+0.01nmと、実質的に試験前とほぼ同一の光学特性を維持しています。
【3】データから見える2つの傾向
① 経時変化が必ずしも単調増加ではない
デュアルバンドパスフィルター(905nm)は6か月時点で-1.91nmと比較的大きなシフトを示していますが、1年時点では-0.21nmまで戻り、2年時点で-0.86nmとなっています。905nmバンドパスフィルターも同様に、1年で-1.10nm、2年で-0.89nmと、時間経過に対して単純に劣化が進行するのではなく、変動しながら一定の範囲内で推移する挙動が見られます。
これは、屋外暴露試験が「経年劣化の一方向的な進行」だけでなく、季節ごとの温湿度変化や膜内部の応力緩和など、複数の要因が複雑に絡み合った結果であると推定しています。この点は、短期の促進試験だけでは見えにくい、実環境データならではの知見と言えるでしょう。
② 基板・膜設計による安定性の違い
同じB270基板を用いた680nmバンドパスフィルターとダイクロイックフィルターを比較すると、680nmバンドパスフィルターの方がより小さいシフト量で安定して推移しています。フィルターの種類(バンドパス/ダイクロイック/デュアルバンドパス)によって膜構成やコーティング設計が異なるため、屋外環境への応答も一様ではないことがわかります。これは、用途に応じて適切な膜設計・基板選定を行うことの重要性を裏付けるデータでもあります。

【4】この結果が意味すること:用途別に考える
①LiDAR・ToF センサー用途(905nm系フィルター)
905nmバンドパスフィルター、デュアルバンドパスフィルター(905nm)は、いずれも自動運転・ドローン・産業用ロボットなどに搭載されるLiDARやToFセンサーで多用される波長帯です。これらの機器は屋外・車載環境での長期使用が前提となるため、「初期性能がどれだけ長く維持されるか」は測距精度・検出安定性に直結します。2年間で±2nm以内という結果は、こうした用途における長期安定性の目安として参考になるデータです。
② 監視カメラ・光学センサー用途(680nm・ダイクロイック)
屋外設置の監視カメラや光学センシング機器では、フィルターの色分離特性や波長選択性が長期間にわたって維持されることが求められます。680nmバンドパスフィルターの安定した結果は、屋外常設タイプの光学機器における採用検討材料となり得ます。
③密着性(テープ試験)の重要性
光学特性の安定性がどれだけ優れていても、膜が剥離してしまえば製品として成立しません。今回の試験で全製品・全期間においてテープ試験が合格し続けたことは、コーティング技術そのものの信頼性を裏付ける結果です。特に屋外用途では、温度サイクルによる膜応力の変化が密着性に影響を与えやすいため、この点は光学性能のシフト量と並んで重視すべき評価軸です。
④「促進試験」と「実環境試験」、二つの視点から見る耐久性
屋外暴露試験は「実環境でどうなるか」を直接示す一方、結果が出るまでに年単位の時間がかかります。これを補完する試験として、当社では耐湿熱試験(85℃・95%RH・1000時間)による促進評価も実施しています。この試験は、高温多湿環境を人為的に再現し、短期間で長期使用相当のストレスを与えることで、光学特性(透過率変化)と物理的健全性(密着性・クラック有無)を評価するものです。
デュアルバンドパスフィルター(905nm)と905nmバンドパスフィルターの2製品については、この耐湿熱試験と今回の屋外暴露試験の両方でデータを取得しています。
| 品名 | 耐湿熱試験(85℃/95%RH, 1000h)でのシフト量 | 屋外暴露試験・2年時点でのシフト量 |
| デュアルバンドパスフィルター(905nm) | 約0.3nm | -0.86nm |
| 905nmバンドパスフィルター | 約0.5nm | -0.89nm |
促進試験・実環境試験のいずれにおいても、シフト量は概ね1nm以内に収まっており、評価アプローチの異なる2つの試験結果が互いに近い水準で一致していることがわかります。また耐湿熱試験では、密着性評価(クロスハッチテープ剥離法)においても剥離無しという結果が得られており、こちらも屋外暴露試験のテープ試験結果と整合しています。
なお、耐湿熱試験では、対照として密着性に問題のある製品(NG品)の剥離状態も顕微鏡観察により確認しており、良品との違いが明確に現れることも確認済みです。こうした比較を通じて、当社の品質管理プロセスそのものの妥当性も併せて検証しています。促進試験による短期間での再現性の高いデータと、実環境での長期データ、この両方を組み合わせて評価することで、より説得力のある耐久性の裏付けとなります。
耐湿熱試験の詳細については、こちらの光学薄膜の耐湿熱試験で公開しています。
まとめ
2024年7月から2026年7月まで、東大阪工場屋上にて実施した2年間の屋外暴露試験では、5種類の光学薄膜フィルターすべてにおいて、
– 半値波長シフト量が2年間を通じて±2nm以内に収まった
– テープ試験は全期間・全製品で合格した
という結果が得られました。さらに、このうち2製品については耐湿熱試験(85℃・95%RH・1000時間)による促進評価とも近い水準の結果が得られており、促進試験と実環境試験という異なるアプローチから、当社の光学薄膜コーティングの耐久性が裏付けられた形です。
もちろん、暴露試験の結果は設置環境(日照条件、気候、汚染度など)によって変わり得るものであり、今回のデータがすべての環境における性能を保証するものではありません。また本試験は今後も継続予定であり、3年目以降のデータが得られ次第、続報としてお伝えしていきます。屋外用途の光学薄膜フィルターを検討されている技術者・購買担当者の方にとって、選定時の重要な参考情報になるのではないかと考えています。
用途や設置環境に応じた最適なフィルター選定については、お気軽に安達新産業株式会社までお問い合わせください。